自分とは誰とも一体になれないのか。

狂人と健常者の狭間に身を置き、醒めては幻視・幻聴に悩まされ、他者を求めながらも得られずに自ら死を選ぶ男。

弟、医者、病院で出会った圭子――彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。

男の狂気を内側から描き、現代人の意識に通底する絶対的な孤独を表出した色川武大最後の長編小説。

色川 武大(いろかわ たけひろ)

1929年、東京生まれ。61年、「黒い布」で中央公論新人賞受賞。77年、「怪しい来客簿」で泉鏡花賞受賞。

78年、「離婚」で第79回直木賞受賞。82年、「百」で川端康成文学賞を受賞。

著書として「穴」「生家へ」「遠景 雀 復活」、また阿佐田哲也の筆名で「麻雀放浪記」などがある。

最後の長編小説となった「狂人日記」で読売文学賞を受賞。89年4月10日、歿。

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